Article無痛分娩は出産に時間がかかる?子宮口の開きや陣痛の強さへの影響を解説
コラム 2024.12.15
出産時に子宮口がなかなか開かず大変だったという声をお聞きすることはありませんか。特に無痛分娩では、「分娩時間が長くなることがある」と聞いて心配している方もいるかもしれません。
「麻酔は早くして欲しいけれど、子宮が開かなかったらどうしよう」「長引いて赤ちゃんに影響ないかな」と考えている方は、ぜひ本記事を読んでみてください。無痛分娩における陣痛や子宮口の開き具合、麻酔のタイミングなど分娩の進捗について解説します。
無痛分娩は分娩に時間がかかる?
「陣痛が来たので、なかなか子宮口が開かなくて一度自宅に戻った」「分娩に時間がかかった」という先輩ママの話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。特に無痛分娩の場合は、痛みを緩和する麻酔薬を投与します。麻酔薬を投与することで、子宮の開きや陣痛の強さに影響があるのかを解説していきます。
麻酔の影響で子宮口が開き始めないのか
まず麻酔を投与することによって、陣痛が始まらない、子宮口が開き始めないということは、概ね心配しなくて良いでしょう。なぜなら、すでに陣痛が始まって子宮口が開き始めてから、麻酔の投与を行うためです。
無痛分娩には、正常分娩と同じように陣痛が来てからいきみ始める自然無痛分娩と、予定日に薬によって陣痛を起こして出産する計画無痛分娩があります。どちらの分娩も、だいたい子宮口が3〜5cm、陣痛間隔が10分以内になってから麻酔薬を投与することが多いです。
「痛みに弱いのでなるべく早く麻酔を投与して欲しい」など希望もあるかもしれません。とはいえ、陣痛が始まった頃の痛みは耐えられないほどではないことがほとんどです。麻酔の効きが悪い場合は、薬の量を調整してもらうこともあります。しかし、陣痛が始まっていないなど全く出産の予兆がない状態で麻酔薬を開始することは基本的にありません。
麻酔を投与することで分娩が長引くことがある?
では、麻酔薬を投与した後の分娩の進捗に遅れがないかとみていきます。結論からいうと、まれに麻酔薬の投与によって分娩時間が長引くことはあります。しかし、麻酔が分娩をスムーズに進める要素もあり、無痛分娩を選ぶと分娩が長くなるとは言えないでしょう。
たしかに麻酔の投与が始まった直後は、一時的に陣痛(子宮収縮)が弱くなることがあります。多くの場合は元の強さに戻りますが、子宮収縮が弱まったままのこともあります。また麻酔が効き過ぎることによっていきむ感覚がわかりにくいという方もいらっしゃるようです。場合によって、陣痛促進剤を使用するなど対処が必要になります。無痛分娩では、赤ちゃんを引っ張る鉗子分娩や吸引分娩を行う割合も増えます。
しかし、麻酔薬の影響で子宮口が開きにくくなることや、産道が狭くなることはありません。正常分娩の場合、痛みが強いと全身に力が入ります。むしろ麻酔によって痛みを緩和した方が、より筋肉や産道の緊張もほぐれて子宮口も開きやすくなるので、赤ちゃんが出てきやすくなるでしょう。
分娩が長引かないような対処は?
日本産婦人科学会によると陣痛開始から生まれてくるまで、初産婦で30時間以上、経産婦で15時間以上になる場合、「遷延分娩」と言われます。分娩時間にかかる時間は個人差があるため、少し長くなる分には問題ありませんが、あまり長くなり過ぎると赤ちゃんも産婦さんも疲れてきます。重篤な合併症などが生じる前に行う処置について説明します。
陣痛促進剤の使用
分娩が長引く時には、陣痛促進剤が使用されることがあります。陣痛促進剤にもいくつか種類があり、陣痛を強くするだけでなく、子宮口を開きやすくする、産道を柔らかくするなど期待される効果もそれぞれです。
陣痛促進剤を使用することで、陣痛が強くなり過ぎて胎児や母体に合併症が出ていることがあります。多くの場合は適切にモニタリングが行えておらず、陣痛促進剤の投与量が多くなることが原因です。陣痛促進剤を安全に使用するためにガイドラインが作成されており、適正に対処することで合併症などは起こりにくくなっています。
いきむタイミングを教えてもらう
正常分娩の場合、子宮口が全開大に近づき赤ちゃんの頭が下がってくると、赤ちゃんを押し出そうとして踏ん張りたくなる「いきみ」が自然に起こります。無痛分娩の場合、このいきみが鈍くなるため、うまくいきめないということもあります。
とはいえ、無痛分娩でも全く感覚がないわけではありません。麻酔が効きすぎていきむタイミングがわかりにくくならないように麻酔の量は調整されます。そして、いきむタイミングがわからなくても助産師が側について教えてくれます。
吸引分娩や鉗子分娩になる
分娩が長引くと、正常分娩と無痛分娩どちらでも、吸引分娩や鉗子分娩を行うことがあります。吸引分娩は吸引カップを赤ちゃんの頭に装着し、鉗子分娩では赤ちゃんの頭や顔を鉗子ではさんで引き出すため、赤ちゃんの頭や頬に引っ張り出した跡がつきます。しかし、跡がついても多くの場合は数日で自然に消滅し、赤ちゃんへの障害はほぼなく、適切に行えば危険な処置ではないと言えるでしょう。
併せて膣の裂傷を防ぐために会陰切開を行い、まれに傷が大きくなることがあります。痛みが長引くこともありますが、きちんと縫合を行うことで時間経過とともに痛みや傷が改善するのを待ちます。
また、尿をうまく溜めたり出したりする感覚がわかりにくくなる膀胱麻痺になる可能性がある可能性がありますが、こちらも数日で元に戻ることがほとんどです。
そもそも分娩時間は個人差が大きいもの
子宮の開き具合など分娩の進み具合には個人差があり、出産にかかる時間は初産婦で平均経10〜12時間、経産婦で4〜6時間と言われています。分娩時間は、赤ちゃんの大きさや胎位、子宮口の硬さや骨盤の大きさなど様々なことが影響しています。
無痛分娩では、陣痛が弱くなって分娩に時間がかかることがあるとされていますが、子宮口が開きやすいというメリットもあり、無痛分娩なら出産に時間がかかるとは一概に言えません。
遷延分娩の要因は
無痛分娩や正常分娩に限らず、分娩時間が長引くことはあります。陣痛の強さ以外にも、赤ちゃんの発育状況や骨盤の形など分娩に時間がかかる理由は様々です。
遷延分娩の要因となるのは以下の通りです。
・微弱陣痛
・胎児が大きすぎる
・胎児が小さすぎる
・骨盤の形に異常がある
・回旋異常
産婦さんが小柄な場合で骨盤が狭いのにも関わらず赤ちゃんの頭が大きい場合や、骨盤の形が変形している場合などは「児頭骨盤不均衡」と呼ばれ、スムーズに赤ちゃんが出て来ることができないことがあります。
また、赤ちゃんは産道を通りやすくするために何度か向きを変えて下りてきますが、うまく向きを変えられないことを「回旋異常」と言います。赤ちゃんが大きすぎる場合や小さすぎる場合、子宮の病気や、赤ちゃんに先天性の疾患がある場合などに回旋異常が起こり、分娩が遅延する原因となります。
分娩が長引かないためにできること
元々の病気や体質、体格などは変えることができませんが、妊娠時や出産時に意識することで分娩が長引かないように予防できることもあります。
痛みが強い場合や、緊張しやすい、不安症があるという場合は体に力が入ってしまい、子宮や骨盤周りの筋肉も緊張して産道が硬くなり分娩時間が長くなる要因となります。日頃からリラックスした生活を意識し、出産時はゆっくりとした呼吸を意識しましょう。無痛分娩を選択して痛みを緩和するのも効果的です。
肥満や妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などは、巨大児や低出生体重児となるリスクが高まります。分娩に時間がかかる要因となるだけでなく、赤ちゃんの成長にも影響します。妊婦健診を定期的に受けて、妊娠の経過や異常がないかを診てもらいましょう。そして、助産師や医師の指示にしたがって適度な運動やバランスの良い食事を心がけてください。
まとめ
無痛分娩は、まれに陣痛が弱くなるなど分娩に時間がかかることがあると言われています。しかし、出産時にリラックスすることで、子宮口が開きやすく産道も柔らかくなりやすいため、無痛分娩だから時間がかかるとは限りません。万が一分娩が長くなっても、麻酔によって痛みが緩和していることで分娩時のストレスも緩和されるなどメリットも多いでしょう。
長くなることで胎児や母体に合併症が生じないように適切に処置が行われます。出産前から心配し過ぎるとストレスになって良くありません。日頃から、健康的な食事や規則正しい生活、十分な睡眠を意識してストレスの少ない生活を心がけましょう。