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Article無痛分娩を選ぶ際に知っておくべき5つのリスク|病院選びのポイントも解説

コラム 2024.10.09

無痛分娩は麻酔を使用し陣痛を緩和する出産方法で、出産時の体力温存や痛みに対する不安が軽減されるため年々選ぶ人が増えています。
一方「無痛分娩のリスクは?」「赤ちゃんへの影響は大丈夫?」「安全に無痛分娩が行える病院はどうやって選んだらいい?」など不安を感じる方もいるでしょう。
この記事では無痛分娩で起こりうるリスクについて詳しく解説します。
またリスクを最小限に抑える方法として、病院選びのポイントや無痛分娩に向かないケースも解説します。
これから出産を控え、無痛分娩を検討している方は参考にしてみてください。

無痛分娩に使用する麻酔方法について

無痛分娩のリスクを理解するために、使用する麻酔について解説します。
無痛分娩時に使用する麻酔は「硬膜外(こうまくがい)鎮痛法」という方法です。
腰骨から細い針を刺し「硬膜外腔(こうまくがいくう)」と呼ばれるスペースに、細い管を通して麻酔薬を注入します。全身麻酔とは異なり下半身の痛みを取り除くため、意識も保たれています。
硬膜外麻酔には、よく起こる副作用や合併症として次のようなものがあります。
・足の力が入りにくい、感覚が鈍くくなる
・尿意が弱い、排尿しづらい(一時的に尿道に管をいれる場合もあります)
・血圧が下がる
・かゆみがでる
・高体温になる
背中の神経には足の感覚や排尿に関わる神経もあるため、麻酔の効きかたによって症状が出る場合がありますが、多くのケースは徐々に改善します。
また麻酔薬の影響で、血圧低下・かゆみ・高体温になる症状もよくみられます。
また頻度は少ないものの、起こりうる重篤な症状を表にまとめました。

硬膜穿刺(こうまくせんし)後頭痛 ・硬膜が傷ついたことで、脳せき髄液が漏れ出ることで起こる

・産後2日までに起こることが多い

・発生頻度は100人に1人程度起こる

局所麻酔薬中毒 ・麻酔薬が血液内に注入されたり、母体にとって麻酔薬の濃度が高くなったりすると起こる
・初期症状としては耳鳴りや舌のしびれがある
・重篤な症状としては心停止するような不整脈が起こる
下半身の神経症状 ・背中から細い管を挿入する際に、管が神経に触れるとお尻や太ももの電気が走るような感覚になる
・一般的には一時的に消失する
高位脊髄くも膜下麻酔・全脊髄くも膜下麻酔 ・脊髄くも膜下腔に麻酔薬が入ってしまうと起こる
・急激に麻酔が効いたり、血圧低下が起こる
・重篤な症状としては、呼吸停止や心停止を起こす
硬膜外血種(こうまくがいけっしゅ) ・硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に血のかたまりや膿(うみ)のたまりができる
・永久的に神経障害が残ることがある
・発生頻度は数万人に1人と非常に稀である

いずれも硬膜外麻酔の合併症として、起こりうるリスクです。
無痛分娩のメリットだけでなく、リスクも十分に理解したうえで選択する必要があるでしょう。

無痛分娩の5つのリスク

無痛分娩の際に起こりうる主なリスクは、下記の5つです。
1. 硬膜外麻酔の副作用と合併症
2. 吸引や鉗子(かんし)など器具を使用した分娩が増える
3. 陣痛促進剤の使用が増える
4. 痛みが緩和されない
5. 赤ちゃんへの影響
さらに詳しく解説します。

硬膜外麻酔の副作用と合併症

前項でも解説した通り、無痛分娩で使用する硬膜外麻酔は副作用と合併症が存在します。
頭痛や足のしびれなどの産後数日で自然に軽快するものから、局所麻酔薬中毒や硬膜外血種など、分娩中に呼吸停止や心停止になった場合は、迅速な救命処置を要します。
発生頻度が稀な合併症であっても可能性がゼロでない限り、リスクについて理解しておく必要があるでしょう。

吸引や鉗子(かんし)など器具を使用した分娩が増える

陣痛が微弱になり赤ちゃんを押し出す力が弱まると、分娩時間が長引き赤ちゃんにも負担がかかります。
赤ちゃんが出てくるのを助けるために吸引・鉗子(かんし)分娩など器具を使う頻度が増えます。
吸引分娩は赤ちゃんの頭に吸引カップを装着し引っ張る手法で、鉗子分娩は鉗子と呼ばれるトングのような器具で、赤ちゃんの頭を挟んで引っ張る方法です。
吸引・鉗子分娩は、母体の会陰の傷が大きくなったり、排尿の感覚がなくなったりするリスクがあります。
赤ちゃんへのリスクとして、頭や顔に数日で消えるような傷やこぶができたり、重篤なケースでは頭の中の出血を引き起こします。

陣痛促進剤の使用が増える

陣痛が微弱になり分娩時間が長引くと、陣痛を促進するために薬を使用します。
子宮の収縮状態や赤ちゃんの様子をモニターで管理しながら、慎重に薬の量を調整します。
起こりうる副作用としては、吐き気・発熱や薬剤に対するアレルギー反応などです。
重篤な合併症としては、陣痛が強くなりすぎた場合におこる子宮破裂、羊水の成分が母体の血液中に混入して起こる羊水塞栓症(心停止や呼吸不全を引き起こす)があります。

痛みが緩和されない

無痛分娩と聞くと全く痛みがないイメージをもつ方もいらっしゃるかもしれませんが、残念ながら全く痛みを感じないわけではありません。
痛みを感じないといきむタイミングがわからないため、意図的にある程度の痛みを感じるように麻酔を調整します。
痛みの感じ方には個人差があり、麻酔が効くまでに急激に分娩が進んだ場合には陣痛の痛みを感じます。

赤ちゃんへの影響

無痛分娩で使用する硬膜外麻酔は、赤ちゃんへの影響はほぼないといわれています。
しかし無痛分娩に限らず、何かしらの原因で分娩中に母体の状態が急激に変化した場合、一時的に赤ちゃんの脈拍や呼吸が弱くなるなどの影響をうける可能性があります。

無痛分娩の妊産婦が亡くなる重大なリスク

実際に過去の無痛分娩のなかで、無痛分娩が直接の原因で死亡事故にいたった事例が気になる方もいるでしょう。
2018年に厚生労働省から発表されたデータによると、2010~2016年に日本産婦人科医会に報告された妊産婦死亡数271例のうち、無痛分娩は14例でした。
14例のうち13例は無痛分娩を行っていなくともおこりえた事例で、1例は局所麻酔薬中毒が原因と報告されています。

無痛分娩のリスクを最小限にするために

無痛分娩に限らず出産はリスクがあり、妊婦さんの年齢や基礎疾患の有無によっても状況は変わります。
無痛分娩のリスクを最小限に抑えるためのポイントは、下記の2つです。
・適切な病院選び
・無痛分娩の適応かどうか知る
詳しくポイントを解説します。

適切な病院選び

無痛分娩を検討するうえで、病院選びは非常に重要で迷うポイントでしょう。
無痛分娩を希望する本人や家族が、必要な情報にアクセスして施設を選べるように、無痛分娩を取り扱う施設が公開している情報は、下記のとおりです。

・無痛分娩の診療実績 

・無痛分娩に関する標準的な説明文書 

・無痛分娩の標準的な方法 

・分娩に関連した急変時の体制

・危機対応シミュレーションの実施歴 

・無痛分娩麻酔管理者の麻酔科研修歴、無痛分娩実施歴、講習会受講歴 

・麻酔担当医の麻酔科研修歴、無痛分娩実施歴、講習会受講歴、 救急蘇生コースの有効期限

日本産婦人科医会偶発事例報告・妊産婦死亡報告事業への参画状況

・ウェブサイトの更新日時

出典:厚生労働省「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」2018年
無痛分娩の実施実績はもちろん麻酔を管理する麻酔科医の体制や、緊急時のリスクに対応できる施設かどうかも重要なポイントです。

無痛分娩の適応かどうか知る

基本的に無痛分娩は希望すれば選択できますが、なかには硬膜外麻酔が適さないために無痛分娩が向かないケースがあります。
無痛分娩が適用されない主なケースは、次のような場合です。
・血液の凝固機能に問題がある
・脊柱に問題を抱えている
・感染症がある
無痛分娩のリスクを減らすためには、自分が硬膜外麻酔の適用かどうか、主治医に確認しましょう。

まとめ

無痛分娩は麻酔によって陣痛を緩和し、痛みによる母体の負担を軽減できる出産方法です。
背中から行う硬膜外麻酔を使用するため、リスクとして麻酔の副作用や合併症があります。
吐き気や頭痛、足の感覚が鈍くなるなどの一時的な副作用から、呼吸困難や心停止など重篤な合併症もゼロではありません。
また麻酔によって陣痛が微弱になるため、いきむタイミングが難しく赤ちゃんが出てくるのを助けるために器具を使用したり、陣痛を促進する薬を使ったりします。
どんなお産も多少のリスクはありますが、無痛分娩のリスクを最小限にするには、適切な病院選びやご自身が無痛分娩に適しているかを把握するのも大切なポイントです。
母子ともに無事で健康な出産ができるよう、無痛分娩のリスクも理解したうえで主治医としっかり相談して無痛分娩を選択しましょう。

 

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